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zoom RSS 悪い夢さえ見なければ タイラー・ディルツ著 創元推理文庫:亡き父に捧げる物語

<<   作成日時 : 2017/03/27 21:13   >>

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CLAUDIO BAGLIONI NIPPON/クラウディオ・バリオーニ・ニッポン
記事執筆:Letterina

ロサンゼルスのロングビーチ市警殺人課刑事、ダニーこと
ダニエル・ベケットは1年半前に妻を交通事故で亡くした。
目覚めてからも内容を鮮明に思い出せるほど、夢見が生々しい。
これだけでもダニーは人生に大きなダメージを受け、彼の過去が
日常に影を落としていることが容易に想像できるのだが、さらに
保安官だった父親が警邏中に殉職したショックで幼児期の記憶が
ないという、ダブルパンチを受けている。

それゆえ殺人課の刑事という激務をこなすには、精神的に
不安定な部分が見受けられる。
事件のロシア人容疑者を半殺しにしたり(同僚に止められ
なかったら殺していたかも)、60フィートの高さのビルの窓から
突き落としてみたり(あくまでも想像で)、別の容疑者を階段から
突き落として首を骨折させたり(あくまでも想像で)と、とにかく
「この人ちょっとヤバイんじゃない?」と危ぶむような人物である。

こんなダニーではあるが、どうやら日本にはシンパシーを
抱いている様子である。乗っている車はトヨタのカムリ、
亡き夫人の事故車はトヨタのカローラ、気になっている車は
ホンダのオデッセイ、そして身につけている時計はセイコー製。
第二次世界大戦中の米軍の原爆投下にも異議がありそうだ。
(一般的なアメリカ人は軍の原爆使用により、対日戦争が
速やかに終結したと思っている)
そして事件捜査の相棒、愛称ジェンことジェニファーは
田中姓の日系人だ。

テコンドーと合気道の有段者であるジェンは、腕っ節の強さ
のみならず、不良少年の更生のために武道教室の講師も
引き受けている正義感の強い女性刑事だ。
彼女なしではおそらくダニーはただの暴走刑事になり果てて
いたかもしれない。
ジェンに自分の部屋の合鍵を渡しておくほど、彼女とは絆の
深いコンビなのである。
ただ、あくまで仕事仲間の絆ではあったのだが、そこはそれ、
人間の感情なんてやつは次第に変化していくものであって、
まあ、このあたりはまだ現在進行中である。

本書のちょっとした特徴なのだが、作家や文芸作品のタイトル、
ミュージシャンの名前、そしてファストフードも含めた食べ物の
名前がいろいろと上がっている。
ミュージシャンでは、ブルース・スプリングスティーン、
ザ・チーフタンズ、エアロスミス、マディ・ウォーターズ、
トム・ウェイツ、ジョニー・キャッシュ、レナード・コーエン、
レイ・チャールズの記述がある。
主人公ダニーはおそらく30代だろうから、(この小説は2009年に
書かれたので、現在のダニーは40歳くらい)このメンツは明らかに
作者のタイラー・ディルツの趣味だろう。
(恐らくディルツは50歳くらいだと思われるが、ウィキペディアに
彼の項目がなく生年がわからない)

そして、日本人には想像するのが困難な食べ物の固有名詞。
スプリーム・ステーキ・チャルバス、ワイルドベリーのポップタート、
フレンチ・ブレッド・ピッツァ、マシュマロ味のフルーツ・ループス、
ワイルトマジックパースト・ポップタート、カルネ・アサーダ・
ブリトー、ジャークチキン・ピッツァ・・・。
飲料の名前も分かる人には分かるのだろうが、アルコールに
疎いわたしにはさっぱりである。
あと、「ベンティサイズのモカ」って?え、LLサイズってこと?
トールサイズとは言わないのか。
これはスターバックスに行かない人間には完全にお手上げの世界だ。

事件そのものはこの一巻で解決しているが、人物の配置や状況を
鑑みると、作者がこの作品をシリーズ物として書き続ける意図が見える。
案の定、訳者あとがきですでに「ロングビーチ市警殺人課」の
過去作品が2作あり、この小説の主人公ダニーが主役を張る作品も
昨年刊行されているという。
そしてこの作品を原案として映画化がすでに決定している。
本作シリーズ日本語訳二編目も今年中に出版予定とのこと、ダニーと
ジェンのその後の活躍を、時間を置かずに読むことができるだろう。

著者ディルツの亡くなった父親も保安官だったそうだ。
小説の中で、父親がカセットテープでジョニー・キャッシュの
Folsom prison bluesをダニーに聞かせるシーンがある。
なるほど母親に捧げられた小説ではあるが、父と同じ職業を
選ばなかった息子が天国の父に読ませたかった作品なのだろう。



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