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zoom RSS 死を告げられた女 イングリッド・デジュール著 ハヤカワ文庫:神も天使もいない世界

<<   作成日時 : 2017/05/09 12:59   >>

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舞台はパリ。
今やすっかりテロの恰好の標的となった花の都。
ハイコ・オモレーヌは35歳のある団体の活動家。
名門の家柄出身、美人でエネルギッシュで傲慢で
フェロモン過剰。
有り余る性欲を処理するため、専用サイトで買った
男性と寝ている。

そんな彼女の身辺警護のために雇われたラース。
アフガニスタンに従軍した元軍人で、精神的に
かなり不安定。
「歩く時限爆弾」と言ってもいい。
カンダハルでの捕虜体験が寝ても覚めても繰り返し
彼を苦しめ、覚醒剤の一種アンフェタミンが手放せない。

ハイコはその活動を理由に、イスラム系テロ組織から
死刑宣告を受けた。
彼女のボディガードとなったラースは身を守る女性の、
裏の姿を次々と知るに至って、疑心暗鬼に陥る。
“果たしてこの女は守るべき存在なのか?それとも糾弾
すべき人間なのか?”

フランスが舞台なのに登場人物の名前がまるでフランス人
らしくない。
ハイコ?ドイツ人の男性名。ラース?スカンジナビア系の名前。
今やフランスのみならずヨーロッパ中がイスラム系の
テロリスト達の犯行現場になっている。
フランスだけの問題ではないから・・・・・ということだと思ったのだが、
違った。
ハイコはなんと日本の名前なのだ。「灰子」と書く。
(Haikoと綴ればフランス人はエコと発音するが、本書では
あくまでもハイコである)
ラースも純粋なフランス人ではない。

愚かなハイコ。
自ら作り出した嘘と傲慢な態度が彼女を真実から遠ざけ、
ラースの信頼を失ってしまう。
そしてそれがまさに彼女のやるべきことだった。

気の毒なラース。
ハイコを守れなかった。彼女を信じられなかった。
なぜならハイコが彼女の信念を貫くために、自分と世間と
ラースを欺くことに成功したから。

どこまでも強かったハイコ。
口先だけじゃないその生きざま。
名声を手に入れ自分の命を差し出した。
なんて皮肉な彼女の名前。

弱虫だったラース。
自分の直感を信じ切れず、ボディガードを首になった。
過去の悪夢にむしばまれ、身近な悪に不用心だった。
でも彼を責める事はできない。
家の中に小さなクモがいても気にならない。
そのクモが透明な糸を吐き、やがて目に見えぬ巨大な
クモの巣に知らぬ間に捕らわれていたのだと、どうやって
彼に分かっただろう?

どの登場人物に好感が持てず、正直読んでいる最中に
うんざりしていた。
いかにもフランス人らしい、自説の主義主張を振りかざす
長台詞や、はっきりとしないハイコの立ち位置。
残り少なくなってきたページで、はじめてこの「じれったい展開」
そのものに意味があったと驚かされる。

冒頭のルディ・アル=ファランシによる福音書からマチューによる
黙示録で物語が締めくくられる。
フランス語のタイトルLes fauvesは「野獣たち」という意味だ。
ラースはこの野獣に内側から喰い尽されてしまった。
この小説には救い主も守護天使も出てこない。
あるのはただ、血まみれの痛ましい現実だけである。

記事執筆:Letterina

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