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zoom RSS 真紅のマエストラ L.S.ヒルトン著 ハヤカワ文庫:“愚かな男の死体がごろごろ”

<<   作成日時 : 2017/05/15 12:59   >>

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1994年に「蜘蛛女」という映画が公開された。
ゲイリー・オールドマン演じる汚職刑事と、レナ・オリン
演じる女の殺し屋の凄絶な物語なのだが、この映画の
宣伝文句が「愚かな男の死体がごろごろ」という、
かなりセンセーショナルな台詞であった。
(ウィキペディアには“死骸”となっているが、
わたしの記憶が正しければ“死体”のはずである)
ヒルトンのこの小説「真紅のマエストラ」を読んで、
おもむろにこのキャッチフレーズが頭に浮かんだ
次第である。
(ちなみに映画のテレビコマーシャルのこの台詞の
ナレーションは来宮良子さんだったと記憶している)

よくぞまあ、ここまで悪に染まるヒロインが描けたと
作者に拍手喝采を送りたい。
主人公のジュディスは27歳、イギリスの大手美術品
競売会社に勤務している。
アシスタント的仕事内容の給料は最低賃金のレベルである。
ある絵の真贋査定に関わった時、社内に不自然な
購入実績があった事を発見した彼女を、黒幕である上司の
ルパートが解雇することからストーリーが始まる。

会社務めと同時にデートクラブでアルバイトをして、
裕福な顧客ジェイムズからすでにご指名を受ける
までになっていたジュディスは、幼馴染で一緒に
クラブで働いているリアンと共に3人でフランスへ
旅行に出かけるのだが、そこで意図せずジェイムズを
死なせてしまう。
殺すつもりはなかった。事故なのだ。
ジュディスは事件をもみ消し、フランスから陸路
イタリアへ向かう。
ジェイムズが持っていた9,000ユーロを逃亡資金にして。

ローマへ移動したジュディスは、やがてマフィア犯罪と
関わる事件を引き起こし、このあたりから彼女の
恐るべき犯罪行為が幕を開けることになる。
ただ美人で頭が切れる女ではない。
恐ろしく冷徹で、血も涙もない。
我が身を守るために邪魔になる人間は全員消して
しまうのである。
(男だけではなく、女も)

主人公は美貌を備えた上美術や音楽にも通じ、
フランス語とイタリア語も堪能である。
だが、上流階級の生まれではない。
それどころか貧困家庭の出身なのである。
シングルマザーの家庭で育ち、貧しさから電化製品の
ローンが払えなくなって、自宅から差し押さえられた
めぼしい家具を運び出されるのを目にしたのは
11歳の時だ。
幼少時代の強烈な体験は、やがて彼女を知性と
美意識で武装させるきっかけとなるのだが、
単なるインテリ系のキャラクター設定ではない。

この小説の読みどころは次から次へと自分の
目的達成のために人を殺めていく主人公の破天荒な
人生であるが、もう一つ、己の肉欲が犯罪達成のための
重要な手段となっているところだろう。
女性作家ならではのセックスシーンの数々は、男性読者
にとっては少々違和感を覚えるのではないか。
それもそのはず、男性作家が描く「男性優位」の
性行為の場面とは全く違う、「女性の快楽」が中心の
ベッドシーンなのである。

銃を手にしてからのジュディスの行動は、“殺しのための
殺し”のような、なりふり構わない状況になって
いくのだが、何が何でも一途に突っ走る(文字通り
アムステルダム行きの列車に乗るため、パリの町を
裸足で走り抜ける)シーンは「行け、ジュディス!
とことん行っちゃえ!!」と、読者をすっかり応援モードに
してしまうのである。

この小説の最初のほうにとても印象に残る文章が
あるので、少し引用したい。
「努力を続けることができたのは上昇志向が
強かったからではない。
(中略)・・・・・・ウォーカー美術館や中央図書館の
リーディングルームへ行くと、その静けさが建物の
美しさ以上に私になにかを訴えかけてくるからだ。
そこには教養があふれていた。教養とは、正しい
知識を身につけていることだ。教養などどうでもいいと
うそぶく人も多いが、教養は大切だ。教養を否定
するのは、美などどうでもいいというのと同じぐらい
愚かなことだ。」(本文45ページ)

欲望に忠実で、目的のためには手段を選ばない美しい
主人公、ジュディス・ラシュリー。
この作品、すでに映画化が決定している。
さぞかしゴージャスな映像になるはずであろうが、
まずは原作を先に読んでほしい。
なにしろ映画では、とてもこの小説のセックスシーンは
再現できないはずだから。

記事執筆:Letterina

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